• TOP >
  • [連載コラム]グローバルコミュニケーションの落とし穴 >
  • 第2回 海外で売るためにはまず「翻訳してはいけない」

[連載コラム] グローバルコミュニケーションの落とし穴

第2回 海外で売るためにはまず「翻訳してはいけない」

 多くの日本企業がグローバル化を標榜するようになりました。しかし、その8割は「見せかけグローバル」というのが実態でしょう。これは造語ですが、国内の株主や投資家へのアピールのためにグローバル化を掲げているだけの企業を私は「見せかけグローバル」と呼んでいます。私はグローバル企業には5つの成長段階があると考えています。成長段階順に「見せかけグローバル」「試しにグローバル」「トライ&エラーグローバル」「ノウハウ蓄積グローバル」「バリバリグローバル」となります。「試しにグローバル」からは実際に海外進出を行っていき、徐々に施策と改善を繰り返す「トライ&エラーグローバル」となり、改善と実績を積んで「ノウハウ蓄積グローバル」となり、最終段階が十分なノウハウ・実績を持った「バリバリグローバル」となります。

 この成長段階のうち、「トライ&エラーグローバル」以上の企業にはある課題が浮上します。それは日本語から現地語への翻訳です。海外にサービスや商品を展開していく以上は、これまで日本語で扱ってきたものをすべて現地語に変換する必要があります。翻訳のレベルはgoogle翻訳などの機械翻訳から直訳、意訳と数段階存在し、さらに製品名やデザイン、訴求ポイントや広告制作にも大きく影響してきますが、「見せかけグローバル」や試運転段階の「試しにグローバル」の企業では高度な翻訳は求められません。一方、実績を積み、海外企業と競い合う「トライ&エラーグローバル」以上の企業はより現地に伝わる言葉の置き換えが不可欠です。企業によっては現地のコピーライターに依頼したり、日本企業の中でも、「外部目線から英語or中国語で事業をプロモーションする」といったニーズが増えてきています。Inside-Outでものを語り、現地語に翻訳するのではなく、Outside-Inで現地のマーケットにどう見られているかをベースにコミュニケーションをとった方がマーケティング精度が高くなるということに気づき始める企業が増えてきました。

 より現地に伝わる置き換え、それは「翻訳しない」ことです。例として世界で展開するあるチェーンホテルの東京店で評判だった「桜のカクテル」があります。このホテルチェーンでは、東京で人気の「桜のカクテル」を海外でも取り扱うことにし、海外ビジターへのプロモーションを行いました。しかし、そこで出されたカクテルは、同じレシピで同じ味なのに、桜という単語すら使わない違った名前になっていたのです。ホテルのプロモーターは日本で親しまれる桜の情報をアピールしても、同じ価値観を持たない現地マーケットでは響かないと考えたのです。つまりこの場合、桜をいつくしむという日本独自の文化ベースを世界共通のものとせずプロモーション行うことに意味があるのです。事実、桜という単語を翻訳しなかったことでプロモーションは成功をおさめ、カクテルは評判を博しています。

現地の目線に立つ「超訳」

 翻訳しないことは現地の視点に合わせること、「超訳」とも言い換えられます。夏目漱石が「I love you」を「月がきれいですね」と訳したエピソードはよく知られているところです。元の言葉とは別物になり、翻訳としての正誤で言えば誤っているかもしれません。しかし、「I love you」は例えば家族間でも使う英語ですから、男女間の状況を伝えるために言葉を置き換えるなら「月がきれいですね」は正しかったということになります。この逸話自体の真偽の程はわかりませんが、一定期間留学していた漱石は、英国の現地感覚も日本の現地感覚も持ち合わせていたに違いありません。この現地の感覚や印象といった細かなところまでマーケティングすることが、現地に受け入れられる「超訳」なのです。

 同様に日本では価値のある文言が、海外向けにそのまま翻訳しても同じ価値を伴わないケースも少なくありません。例えば「東大」という単語は日本ではナンバーワンの難関大学として特別に優秀な印象を与える言葉として使われますが、海外向けに翻訳しても一大学名に過ぎません。あるいは国内シェアナンバーワンといううたい文句も、海外向けに翻訳しても「忍者の国のナンバーワンがどうすごいの?」と思われる程度かもしれません。日本の価値観をそのまま海外に発信してもうまくいくはずがないのです。では「バリバリグローバル」企業はどうやって現地向けに情報発信をしているのでしょう。実は超訳で成功しているグローバル企業は日本では何もしていないのです。現地での情報発信は現地のスタッフ、PR会社に「丸投げ」をして成果をあげています。現地のマーケッターにすべてを任せることで、日本の情報を現地に適した形に昇華し、マーケットに適合させているのです。情報を超訳するためには現地の文化に合わせることが重要です。本気で海外でセールスするなら、翻訳しないということがまず大前提となることを覚えておいてください。

向島 湊

グローバルコミュニケーション
研究員

向島 湊

株式会社エーフォース 統括ディレクター
米国ニューヨーク州立大学芸術学部卒。東京、ニューヨーク、ロサンゼルス、中国を拠点に現地のベンダーと協力して日本企業の海外広告プロモーション、PRブランディング、海外マーケティングの分析、戦略等の一貫した設計に携わる。日系・外資系大手企業のPMO、コンサルタントを歴任。

日経BP社ビジネス・サポートにお任せください!

お問い合わせの内容は、必ずしも具体的である必要はございません。まずはお問い合わせください。最適なソリューションをご提案致します。

電話でのお問い合わせ
資料請求・お問い合わせ