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[連載コラム] 後悔しない周年事業の進め方、教えます

第1回 もはや凶器?! 1000ページの「箱入り社史」を、またつくるのか?

 「これはもう、凶器ですよ」。そう苦笑いするのは、ある企業の周年事業担当者A氏だ。

 彼が抱えてきたのは、創業80周年で制作した分厚い社史。ガッチリした箱の幅は5センチ、重さにして3キログラム。確かに、これが頭の上から落ちてきたらケガは免れないだろう。ケースから本誌を取り出すと、布張りの表紙に金文字の社名が躍る。1000ページにわたる本文。持ち上げるのもやっとなので、ページを開くのも一苦労だ。

 創業からの歴史を時系列で紹介する構成で、史実を淡々と記録した文章はメリハリや面白みに欠ける。「これを全ページ読んだ人は、社内でもほとんどいないと思います」とA氏は言う。

 1980〜90年代、多くの企業がこうした分厚い社史や周年史をつくってきた。この企業のように、つくってもほとんど読まれないことも多かっただろう。「”社長室の本棚に飾られたまま読まれない社史”から、脱却しよう」。私たちは、周年事業に関してこのアドバイスを繰り返している。

 「弊社は3年後に100周年を迎えます」とA氏。「そのときにこのような分厚い社史をまたつくるのか、それともやめるのか。そろそろ決めないといけない時期なのですが、正直迷っています」とため息をつく。

紙からデジタルアーカイブへ移行

 こうした中、紙の社史と決別した企業がある。2019年に120周年を迎えるB社は、創業100周年の際に布張りの社史を制作したが、「次は、紙はやらない」決断をした。代わりにデジタルアーカイブを採用する。

 膨大な資料をデジタル化し、検索システムを構築するのがデジタルアーカイブだ。文章や写真(ネガ、ポジフィルムや紙焼き)をスキャンし、タグ情報を付けてカテゴリー分けする。画像にもタグを付けるのでいつでも検索が可能になる。

 B社はまず110年分の年表をエクセルにまとめ、経営、製品、研究といったカテゴライズを行い、デジタルアーカイブのマスターデータを作成した。アーカイブ資料は、社内のイントラネットに掲載したりWebで公開したりする。

「箱入り社史」をつくり続ける企業も

 中には「分厚い社史」制作を継続する企業もある。楽しい読み物ではないが、史料的価値があることは事実だ。例えばある自動車部品メーカーの50年史は、そのまま自動車産業の歴史を伝える貴重な資料となっている。社史の原稿は社内の担当者が書く場合もあるが、数人の大学教授が共同執筆することも多い。当時の政策や業界に関して知見のある執筆者が書いた文章には重みもあり、産業史としても参考になる。

 ある情報システム会社は2015年に50周年を迎えた際、800ページの社史を制作した。単に時系列で出来事を記録しただけでなく「経営史」「事業史」などと分けて詳説し、よく考えて編集されている。同社の担当者はこの社史を「枕になりますよ」と称した。「弊社は記念式典、社員の家族を呼んだパーティ、植林など様々なイベントを行いましたが、社史も周年事業の一つとして制作したのです」

 2015年に結成25周年を迎えた日本労働組合総連合会(連合)は、『ワーキングピュア白書』(プロジェクト25実行委員会編著、日経BPコンサルティング発行)という書籍を発行した。第三者に企画、取材を委託した書籍を制作し市販することで、若い世代の連合や労働組合の認知度向上を図るのが目的だった。連合はまた、「連合運動史」を5年ごとに制作している。こちらは連合と関係団体の教育文化協会とで制作に当たり、連合の歴史を忠実に記した貴重な記録史料となっている。

枕になるか凶器になるか

 このように、「分厚い紙の社史」も、決して存在価値がないわけではない。重要なのは、何を目的として制作するかだ。

 悩む周年担当者A氏に「トップや社員の皆さんは、どうお考えなのですか?」と聞くと、「うーん」と言葉に詰まった。「私はできればやめたいのですが、何しろ100年ですからね。このタイミングでやめるとOBに何を言われるか心配で……」。社内やステークホルダーだけでなく、既に退職した人たちの意向を忖度しなければいけないとは、大変なことである。

 こういう場合は経営陣、社員、ときにはOBも含め徹底的に議論することを勧めている。周年に当たり、誰に何を訴求したいのか。企業の未来にとって、どんな事業を行うべきなのか。皆で話しているうちに見えてくることもあるはずだ。

 「箱入り社史」が関係者に未来の夢を見せてくれる「枕」になるのか、気持ちを傷つけるだけの「凶器」になるのか。それを決めるのは社員一人ひとりなのだ。

 次回は、企業の「インターナルブランディング」を紹介する。

大塚 葉

日経BP社 カスタム事業本部
カスタム企画部担当部長

大塚 葉

(おおつか・よう)
日経BP社入社後、「日経PCビギナーズ」発行人兼編集長、日経ビジネスオンライン、日経WOMANプロデューサー、日経BPコンサルティングカスタム出版本部第二部長などを経て現職。近著に『社史・周年史が会社を変える!』(発行:日経BPコンサルティング)。
※筆者の会社名および役職は執筆当時のものです。

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